はじめに
伝えたいことが増える。
説明したいことが増える。
補足したいことが増える。
これは、何かを作る人であれば誰でも経験することだと思います。
そして多くの場合、
「もっと詳しく説明した方が伝わるはずだ」
と考えます。
しかし実際には、
情報を増やしたことで分かりにくくなる。
説明を増やしたことで焦点がぼやける。
そういったことも少なくありません。
私はこれまで、営業、販促、経営、デザインなど様々な現場に携わってきました。
その中で感じているのは、
物事が成立しなくなる原因は、情報不足だけではないということです。
むしろ、
情報を増やしたことで成立しなくなることもあります。
今回は「情報」という視点から、
どうすると物事を成立させやすくなるのかを整理していきます。
第1章|人はまず、関係性を探している
人は情報を見た時、その内容をすべて理解しようとしているわけではありません。
まず最初に無意識で行っているのは、
「これは自分に関係があるのだろうか」
という判断です。
今の自分に必要なのか。
将来の自分に必要になるのか。
過去の経験と関係があるのか。
家族や知人に関係があるのか。
人は様々な方向へ発想を広げながら、自分との関係性を探しています。
例えば、独身の時には住宅ローンの記事に興味がなかった人が、結婚して家を考え始めた瞬間に、その情報が急に目に入るようになることがあります。
情報が増えたわけではありません。
自分との関係性が生まれたのです。
また、その関係性は現在だけとは限りません。
今は関係がなくても将来必要になるかもしれない。
自分には関係がなくても、家族や知人には関係があるかもしれない。
人は無意識のうちに、様々な方向へ関係性を広げながら情報を受け取っています。
つまり人は、情報そのものを見ているのではありません。
情報と自分との関係性を見ています。
そして、その関係性が強いほど興味を持ちます。
関係性が弱いほど見過ごします。
情報量より先に、関係性が判断されているのです。
だからこそ私は、様々な制作や企画を考える時、まず関係性から考えます。
・誰と誰の関係なのか
・何と何の関係なのか
・今どのような状態なのか
・これからどうなっていくのか
・その情報は誰に関係するのか
・どのような状態の人に必要なのか
・どんな場面で受け取られるのか
・今のその人に必要なのか
・将来のその人に必要なのか
そういった関係性を整理していくことで、初めて伝えるべき内容や優先順位が見えてきます。
この章の要点
人は情報そのものではなく、自分との関係性を見ています。
だからこそ、何かを成立させるためには、まず関係性を整理することが重要です。
第2章|伝えたいことは、全部大事に見える
何かを作る時、
「あれも伝えたい」
「これも伝えたい」
という状態になることがあります。
それは当然です。
作る側は背景も知っています。
経緯も知っています。
苦労も知っています。
だから、どれも大事に見えます。
しかし受け取る側は違います。
初めて見るかもしれません。
興味があるかも分かりません。
そもそも、その情報を必要としていないかもしれません。
つまり、
伝える側と受け取る側では、
重要だと思っているものが違うのです。
私はよく、
「全部大事なんです」
という話を聞きます。
実際、その通りだと思います。
事業の歴史も大事です。
認証も大事です。
実績も大事です。
サービスの特徴も大事です。
ただし、
すべてを同じ強さで伝えることはできません。
だから必要になるのが、
優先順位です。
何を最初に理解してもらうべきなのか。
何を補足として伝えるべきなのか。
何を後から伝えるべきなのか。
そこを整理しなければ、
結果として全部が弱くなります。
全部が大事だから全部を同じように見せる。
これは一見正しそうに見えます。
しかし実際には、
何が重要なのか分からなくなる状態を作ってしまいます。
この章の要点
伝える側にとっては全部大事でも、受け取る側にとっての重要度は違います。
だからこそ、優先順位を整理する必要があります。
第3章|全部大事は成立しない
ここでさらに難しい問題があります。
それは、
「何が大事なのか」
が人によって違うということです。
伝える側は、自分たちのことをよく知っています。
長年積み上げてきた実績。
苦労して取得した認証。
他社にはない強み。
どれも大切です。
だから当然、
「全部入れてください」
という話になります。
しかし、受け取る側は違います。
受け取る側は、自分に関係があることしか見ていません。
企業にとって大事なことと、
受け取る側にとって大事なことは、
必ずしも一致しないのです。
例えば、認証取得は企業にとって大きな成果かもしれません。
第三者から評価された証でもあります。
しかし、受け取る側が最初に知りたいのは、
「自分にどんなメリットがあるのか」
であることが少なくありません。
認証そのものではなく、
その商品やサービスが、自分にどんな価値をもたらすのか。
まずそこに関心があります。
つまり、
伝える側が大事だと思っていることと、
受け取る側が知りたいことは違う場合があるのです。
私はよく、
「何が大事ですか?」
とは聞きません。
なぜなら、多くの場合、
答えは「全部大事」だからです。
実際、それは間違いではありません。
経営者にとっても。
担当者にとっても。
営業にとっても。
それぞれに大事な理由があります。
だから私は、
今までの経緯。
現在の状況。
今後目指している方向。
それらを整理しながら、
今回何を最優先にするべきかを一緒に考えていきます。
何が大事かを聞くのではなく、
何を成立させたいのかを整理していくのです。
そうすると見えてくるものがあります。
今、一番伝えるべきこと。
今は補足として扱うべきこと。
別の媒体で伝えるべきこと。
営業が説明するべきこと。
その整理ができるようになります。
私はこれを、
情報の優先順位を決めるというより、
成立条件の優先順位を決めることだと思っています。
何を成立させたいのか。
そのために最初に理解してもらうべきことは何なのか。
そこが決まると、
情報の見せ方も変わってきます。
この章の要点
全部が大事でも、全部を同じ強さで伝えることはできません。
大切なのは、「何が大事か」を探すことではなく、「何を成立させたいのか」を整理し、そのための優先順位を決めることです。
第4章|理解は情報量ではなく、関係性から生まれる
多くの人は、理解とは知識が増えることだと思っています。
しかし私は、理解とは関係性が整理されることだと思っています。
例えば、
タイヤ。
ハンドル。
エンジン。
ブレーキ。
それぞれの名前を知っていても、車を理解したことにはなりません。
しかし、
アクセルを踏むとエンジンが動く。
エンジンの力がタイヤへ伝わる。
ハンドルで方向を変える。
ブレーキで止まる。
という関係性が見えると、初めて車の仕組みが理解できます。
情報量が増えたから理解したのではありません。
情報同士の関係性が整理されたから理解できたのです。
私はパンフレットや営業資料を作る時も同じように考えています。
誰が持つのか。
誰が説明するのか。
誰が受け取るのか。
初めて知る人なのか。
比較検討している人なのか。
営業マンが説明する前提なのか。
説明なしで読むものなのか。
そういった関係性を整理していくことで、初めて適切な構成が見えてきます。
例えば、営業マンが説明する前提の資料であれば、営業マンが説明しやすい構成が必要になります。
それは単に見やすい資料ということではありません。
誰が説明しても同じ説明ができる状態を作るということです。
新人でも。
ベテランでも。
担当者が変わっても。
商品の説明やサービスの説明に大きなブレが生まれない。
そういった共通言語として機能することが資料の役割になります。
一方で、初めて知る人向けの資料であれば考え方は変わります。
その場で全てを理解してもらうことよりも、
まず存在を知ってもらう。
興味を持ってもらう。
そしてWebサイトなどへ誘導し、さらに理解を深めてもらう。
そういった役割になります。
つまり、
同じパンフレットでも、
誰が。
誰に。
どの状態で。
何を成立させるために。
という条件が変われば、構成も変わるのです。
理解とは、情報を増やすことではありません。
情報の量ではなく、関係性を適切に整理することで生まれるものなのです。
だから私は、
まず情報を見るのではなく、
関係性を見ます。
誰が関わるのか。
どのような状態なのか。
何を理解してほしいのか。
その関係性を整理した上で、情報を配置していきます。
そうすることで、理解は早くなり、伝達の精度も高まっていきます。
この章の要点
理解につなげるためには、情報を増やすのではなく、関係性を適切に整理する必要があります。
第5章|整理とは、捨てることだけではない
ここまで読んで、
「じゃあ、伝えたいことを削らなければいけないのか」
と思われたかもしれません。
確かに整理には、不要なものを取り除くという意味があります。
それは間違いではありません。
しかし私は、整理とは単純に捨てることだけではないと思っています。
大切なのは、
今ここで必要なのか。
今ここでは必要ではないのか。
を見極めることです。
例えば、ポスターを作る場合です。
ポスターには大きな制約があります。
見る時間が短い。
離れた場所から見られる。
一瞬で判断される。
そういう媒体です。
であれば、まず必要なのは、
足を止めてもらうこと。
興味を持ってもらうこと。
存在を知ってもらうことです。
そこへ、
会社の歴史。
細かな仕様。
詳細な説明。
認証内容。
実績一覧。
などを大量に入れても、読まれない可能性があります。
だからといって、それらが不要な情報というわけではありません。
例えばポスターでは必要ない情報でも、
パンフレットでは必要になるかもしれません。
パンフレットでは必要ない情報でも、
Webサイトでは必要になるかもしれません。
最初の説明では必要なくても、
比較検討の段階では必要になるかもしれません。
つまり情報そのものが不要なのではなく、
状態や場面によって必要性が変わるのです。
私はよく、
「全部大事なんです」
という話を聞きます。
実際、その通りだと思います。
事業の歴史も大事です。
認証も大事です。
実績も大事です。
サービスの特徴も大事です。
ただし、
すべてを同じ場所で、
同じ優先順位で、
同じ強さで伝えることはできません。
だから整理が必要になります。
私は、
削るか残すか。
だけでは考えません。
今必要なのか。
後で必要なのか。
誰に必要なのか。
どこで必要なのか。
を整理していきます。
その結果として、
削除することもあります。
配置を変えることもあります。
媒体を変えることもあります。
順番を変えることもあります。
整理とは、単純に捨てることではありません。
関係性や状態、時間軸を見ながら、必要性を見極めることなのです。
そして、その整理ができると、
何を最初に伝えるべきか。
何を後で伝えるべきか。
何を別の場所で伝えるべきか。
が見えてきます。
私はそれを、
理解の流れを設計することだと思っています。
この章の要点
整理とは、捨てることだけではありません。
関係性や状態、時間軸を見ながら必要性を見極め、その結果として削除・配置変更・媒体変更・順序変更を行うことです。
第6章|情報を増やすほど、成立しなくなる理由
ここまで、
関係性。
優先順位。
理解。
整理。
についてお話してきました。
ではなぜ、情報を増やし続けると物事は成立しにくくなるのでしょうか。
私はその理由を、
「解釈が増えるから」
だと考えています。
人はよく、
「もっと詳しく説明した方が伝わる」
と思います。
もちろん、説明が不足している場合は必要です。
しかし、情報は増やせば増やすほど良いとは限りません。
むしろ、ある地点を超えると逆のことが起きます。
解釈が増え始めるのです。
ここで一つ、とても分かりやすい例があります。
道路標識です。
例えば交差点の手前に、
「この先は交通量が多く危険です。速度を落とし、すぐに停止できるよう注意してください。」
という文章が書かれていたとします。
説明としては間違っていません。
むしろ丁寧な説明です。
しかし、運転中にその文章を読んで、理解し、判断し、行動するには時間がかかります。
一方で、
「止まれ」
の三文字と赤い標識はどうでしょうか。
情報量は圧倒的に少ないはずです。
しかし、理解は圧倒的に早くなります。
なぜなら、
解釈がほぼ一つに絞られているからです。
止まる。
車を停止させる。
やるべき行動が明確です。
つまり、
情報量を減らしているのに、理解度は上がっているのです。
これは情報が少ないからではありません。
解釈が整理されているからです。
私は、情報を増やすことよりも、解釈を増やさないことの方が重要だと思っています。
解釈が増えると、
人によって受け取り方が変わります。
誤解が生まれます。
判断がブレます。
そして行動もブレます。
理解そのものが目的ではありません。
最終的には、
問い合わせをしてほしい。
購入してほしい。
申し込みをしてほしい。
社内で実践してほしい。
そういった行動につながることが重要です。
だから私は、
解釈を増やさないことを重視しています。
時々、
「いろいろな見方ができるから面白い」
という考え方があります。
もちろん、アートや表現の世界ではそういう考え方もあります。
しかし、何かを成立させるという視点で考えると話は変わります。
本来伝えたいこととは関係のない解釈が生まれる。
人によって違う意味で受け取られる。
こういう意味にも見える。
ああいう意味にも見える。
それは一見面白く見えるかもしれません。
しかし実際には、
どう受け取れば良いのか分からない。
何をすれば良いのか分からない。
という状態を生み出します。
つまり、
どうとでも取れる状態です。
私は、それを避けたいと思っています。
どうとでも取れる状態ではなく、
こう理解してほしい。
こう受け取ってほしい。
こう行動してほしい。
という状態へ整理していく。
解釈を増やすのではなく、解釈を絞り込む。
それが物事を成立させるためには重要だと考えています。
私は、デザイン思考の根幹に、
「難いことを易くする」
という考え方を置いています。
これは私が提唱している考え方です。
伝わりにくいことを伝わりやすくする。
理解しにくいことを理解しやすくする。
行動しにくいことを行動しやすくする。
私はこの考え方をお伝えすると、多くの方が
「なるほど」
と言ってくださいます。
なぜなら、一般的にはデザインというと、見た目を整えることや、見栄えを良くすることだと思われているからです。
しかし私は、デザインとは見た目を整える行為ではなく、考え方そのものだと思っています。
どうしたら伝わるのか。
どうしたら理解しやすくなるのか。
どうしたら行動しやすくなるのか。
その成立条件を整理していく考え方です。
そして、このことをご理解いただくと、デザイン思考とは単なる制作のための考え方ではなく、経営や組織運営の上流に置くべき思考の一つだということも見えてくると思います。
だから私は、
関係性を見る。
状態を見る。
時間軸を見る。
優先順位を見る。
そして、
解釈を整理する。
必要以上の情報を足すのではなく、
理解に必要な情報を見極める。
私は、グラフィックデザインだけを見ているわけではありません。
営業、認知、伝達、運用、経営など、様々な関係性を横断しながら、「どうすると物事は成立するのか」を考えています。
ア ヒラガデザインが大切にしているのも、個別の要素ではなく、それらの整合性です。
そのため、この連載でも単なるデザイン論ではなく、物事の成立条件そのものを扱っています。
それが私の考える構造化デザイン思考です。
「難いことを易くする」
という考え方は、今後の連載でも様々な具体例を通して繰り返しお話していきます。
おそらく、この連載全体を通して流れている考え方の一つになると思います。
この章の要点
情報を増やすほど、解釈は増えます。
解釈が増えるほど、判断はブレます。
物事を成立させるためには、情報を増やすことではなく、解釈を整理することが重要です。
そして、その根底には、
「難いことを易くする」
という考え方があります。
第7章|成立するとは、解釈が揃い、行動が揃うこと
ここまで、
目的。
対象。
認知。
優先順位。
関係性。
整理。
情報。
という視点から、
なぜ物事が成立したり、成立しなかったりするのかを見てきました。
多くの場合、
成立しない原因は能力不足ではありません。
情報不足でもありません。
努力不足でもありません。
そもそも見ているものが違う。
理解していることが違う。
重要だと思っていることが違う。
解釈が違う。
そういったズレが積み重なっていることが少なくありません。
例えば、
経営者は未来を見ている。
現場は今日の業務を見ている。
営業は顧客を見ている。
総務は社内運営を見ている。
それぞれ間違っているわけではありません。
ただ、見ている場所が違うのです。
だから伝わらない。
だから噛み合わない。
だから物事が進まない。
そういうことが起きます。
私はこれまで様々な現場で、
「なぜ伝わらないのだろう」
「なぜ進まないのだろう」
という問題を見てきました。
そして、その多くは能力の問題ではなく、
関係性の整理不足でした。
誰が。
誰に。
何を。
どの状態で。
どの順番で。
どの手段で。
伝えるのか。
そこが整理されると、驚くほど物事が動き始めます。
だから私は、
デザインを見た目を整える仕事だとは考えていません。
デザインとは、
物事を成立させるための整理だと思っています。
関係性を整理する。
優先順位を整理する。
解釈を整理する。
そして、
難いことを易くする。
その結果として、
理解が生まれる。
行動が生まれる。
成果につながる。
私はそう考えています。
この連載では今後も、
デザイン。
経営。
営業。
ブランディング。
組織。
伝達。
様々なテーマを扱っていきます。
しかし根底にある考え方は変わりません。
物事を成立させるためには何が必要なのか。
どこでズレが生まれるのか。
どう整理すると伝わるのか。
その視点を、これからも一緒に掘り下げていきたいと思います。
この章の要点
成立とは、単に情報が伝わることではありません。
関係者の解釈が揃い、必要な行動が生まれる状態です。
そのためには、関係性・優先順位・状態・時間軸を整理し、難いことを易くしていく視点が重要になります。
補足|チェック項目
情報や解釈を整理する時は、すべてを順番通り確認する必要はありません。
見落としや、解釈のズレを防ぐために、気になる項目を使って整理してください。
・今回、本当に成立させたいことは何か
・誰に向けた情報なのか
・その人は今どのような状態なのか
・最初に理解してほしいことは何か
・伝える側と受け取る側で、重要だと思っていることにズレはないか
・企業側が伝えたいことと、受け取る側が知りたいことは一致しているか
・全部大事になっていないか
・何を最優先に伝えるべきか整理できているか
・情報同士の関係性は整理できているか
・理解を妨げる情報が混在していないか
・その情報は今必要なのか
・後から伝えるべき情報ではないか
・別の媒体で伝えた方が良い情報ではないか
・解釈が複数に分かれる表現になっていないか
・どうとでも取れる状態になっていないか
・理解してほしいことと、行動してほしいことは一致しているか
・情報を増やすことが目的になっていないか
・解釈を整理することができているか
・「難いことを易くする」という視点で見直せているか